理事長ご挨拶

一般社団法人 日本老年医学会 理事長 楽木宏実
(大阪大学大学院医学系研究科 老年・総合内科学 教授)

 日本老年医学会は1959年に設立され、1995年には任意団体から社団法人を設立するに至り、現在の会員数は6000名を越しております。社団法人設立後、折茂肇先生(東京大学、6年間)、佐々木英忠先生(東北大学、4年間)、大内尉義先生(東京大学、10年間)という3名の歴代理事長の下、老年医学という学問の発展だけでなく、超高齢社会を迎えての高齢者の健康・福祉に関する幅広い分野で活動を進めて参りました。2015年6月の総会後より第4代理事長に就任させて頂くこととなり、これまでの学会の活動を更に発展させるべく学会としての継続課題、重要課題の整理、それを支える各種委員会体制の見直しを行って参りました。理事長就任3ヶ月を経て漸く学会の新体制が整いました。改めまして、会員ならびに老年医学にご関心をお持ちの皆様に、新体制のご紹介と当面の学会活動方針を含めてご挨拶申し上げます。

1.日本老年医学会の責務

 日本が超高齢社会を迎えて久しく、いわゆる団塊の世代が後期高齢者となることに伴う2025年問題も迫っております。一方で、小児科など一部を除くほとんどの診療科において対象患者の大半は高齢者となり、ややもすると老年医学の専門性が見失われがちです。このような時代にこそ、加齢や高齢者そのものを対象に医学・医療を研究し、その実践を医療界・社会に還元してきた老年医学会は、継続して老年医学を発展させ、日本あるいは世界の超高齢化の波に対して適切な方向性や具体的な方策を示すとともに、率先して高齢者の医療・福祉に貢献するべく努める責務があると考えます。
 学会活動の対象は、学会員や老年病専門医に留まらず、学生~非専門医~医師以外の多職種、超高齢社会の課題に挑戦するすべての研究者、行政と幅広い。老年医学・老年病診療の独自性の追求とともに、国民の健康に資することのできる活動を心がけます。従来、本学会は老年医学に関する講座を全大学に設置することをひとつの活動目標に掲げてきましたが、全国的な規模での人材育成、教育の標準化、老年病研修の標準化が基盤になければ成しえることではなく実効性のある活動を展開していきたいと考えています。

2.会員が一丸となって活動できる学会を目指す:委員会体制の改編

 副理事長に秋下雅弘先生(総務・政策・診療担当、東京大学)と荒井秀典先生(国際・学術担当、国立長寿医療研究センター)にご就任いただき、学会の直面する重要課題を整理しました。主要な新委員会として、高齢者医療委員会(秋下雅弘委員長)、学術委員会(鈴木隆雄委員長)、専門医制度委員会(神﨑恒一委員長)、国内交流委員会(葛谷雅文委員長)などを設置し、従来の委員会も小委員会を設けるなどしました。

3.会員に魅力ある学会を目指す:老年医学・老年病研究の推進と開かれた学会

 本学会の構成員は基礎医学、臨床医学、老年学と様々な分野から参画いただいています。それぞれの分野における重要課題の抽出とそれに対する集中的セミナーや研究会の企画は具体的行動目標のひとつです。具体的には、日本サルコペニア・フレイル研究会の活動支援、国立長寿医療研究センターならびに老年病医学講座を核とした老年医学・老年病研究推進のための老年医学イノベーションフォーラム(Geriatric Innovation Forum)(仮称)の立ち上げ、老年医学を志す若者を対象としたサマーセミナーの拡大などに取り組みます。

4.人材育成拠点としての学会を目指す:老年病専門医の育成

 学会による人材育成の中心は老年病専門医育成です。内科専門医のサブスペシャリティとしてその独自性を明確にし、以下の「老年病専門医が備えるべき資質」を涵養できるプログラム作りを目指します。当面は、地域において老年医学的見地から様々な医療・福祉関係者に対して指導・支援を行いうるリーダー、かつ専門性の高い患者への対応を行いうる医師として専門医を養成し、さらに将来は、地域の中核となる病院において他科からのコンサルテーションを含めて対応できる専門診療科設置に見合うだけの専門医を順次養成して参る予定です。

老年病専門医がサブスペシャルティとして備えるべき資質
  1. 1) 生活機能重視型医療の実践:高齢者に多くみられる病態、とくに老年症候群(誤嚥、易転倒性、せん妄、低栄養、認知症、排尿障害、寝たきり、褥瘡など)の一体的管理を適切に行い、生活機能の改善・維持に努めることができる。
  2. 2) 治し・支える医療の実践:後期高齢者、加齢に伴う機能低下のある65歳以上高齢者、多病で障害を抱えた高齢者に対して、疾患単位でなく全人的に診ることで健康長寿に資することができる。具体的に、高齢者総合機能評価(CGA)の結果を治療やケアへ反映させることができる。
  3. 3) 認知症の包括的管理の実践:認知症を他の合併疾患(肺炎などの急性疾患を含む)と共に管理できる。
  4. 4) 介護予防の実践:フレイルを早期に把握し栄養や運動などによる適切な介入を行える。
  5. 5) ポリファーマシーへの介入:エビデンスと高齢者の病態理解に基づく減薬を実践できる。
  6. 6) 高齢者のエンドオブライフケアの実践:特に人生の最終段階における緩和ケアや栄養管理の選択を医学的・倫理的観点から実践できる。
  7. 7) 急性期医療機関での高齢者医療の質と効率の向上の実践:内科の一部門として高齢者の急性期医療を実践すると共に、手術前高齢者へのCGAによる助言やポリファーマシーへの介入、老年症候群の一体的管理(特に誤嚥、易転倒性、せん妄、低栄養)、退院調整から地域包括ケアへのシームレスなマネジメントならびにそれらのコンサルテーションなどを介して病院全体の高齢者の急性期医療の質と効率の向上に貢献できる。
  8. 8) 多様な診療環境での医療の実践:急性期~回復期~慢性期の病院、在宅、入所施設など様々な環境において、多職種協働を実践し高齢患者に最善の医療を提供できる。
  9. 9) 医療・介護・福祉一体型システムの構築と提供:医療、看護、介護に渡る幅広い知識と実践力を有し、多様な医療環境や介護環境の選択を含めて地域での療養の場について多職種と協働して包括的にコンサルテーションできる。また、地域包括ケアシステム構築において中核的役割を果たすことができる。
  10. 10)老年病学研究と医学・医療・公衆衛生への応用の実践:基礎あるいは臨床研究への参画を原則とし、エイジングサイエンスの推進、老年病分野でのエビデンスの構築やEvidence -based Medicineの推進、高齢者のパブリックヘルスの推進などに貢献できる。

5.医療界に貢献する学会を目指す:老年病の教育と啓発

 全国の大学ならびに研修指定病院で老年病学に特化した部門を設置していない大学病院が多い現状で、老年病診療における医療の質の向上と均一化を目的に老年医学会が中心となってこれまで多数の活動を実施してきました。高齢者特有の問題に対する様々なガイドラインなどの発表、学部学生教育のための『老年医学系統講義テキスト』の発行、実地医家向けの『健康長寿診療ハンドブック』の出版、様々な研修会の開催や講師派遣と多岐に渡ります。今後も、これらの活動を継続するとともに、全国の大学を結んだ教育体制の構築も視野に、あり方委員会においてワーキングを設置して検討して参ります。

6.世界に発信する学会を目指す:国際化の推進

 学会の英文学術誌であるGeriatrics & Gerontology International (GGI)の質の向上や、GGIを介した日本のガイドラインなどの世界に向けた情報発信を積極的に展開します。また、International Association of Gerontology and Geriatrics (IAGG)、IAGG Master Class on Ageing in Asiaの継続やアジアの老年医学関係団体との連携強化に加え、European Union of Geriatric Medicine Society (EUGMS)American Geriatrics Society (AGS)を含む海外の関係団体との連携も図ります。最長寿国である日本、急速な高齢化に対応する日本という観点からの発信だけでなく、世界における成功例の情報交換、Aging Scienceに関する若手研究者の交流による人材育成も国際化の目標です。

7. 豊かな超高齢社会に貢献できる学会を目指す:国立長寿医療研究センターとの協働

 第22期日本学術会議臨床医学委員会老化分科会(国立長寿医療研究センター名誉総長 大島伸一委員長)は、2014年9月30日に「超高齢社会のフロントランナー日本:これからの日本の医学・医療のあり方」と題する提言を発表しています。その中で、「患者は病人である前に生活者である」ということを改めて考え、従来の「治す医療」から「治し支える医療」へパラダイムの転換を進めるべきとしています。日本老年医学会は、国立長寿医療研究センターと協働し、提言の実行に向けて活動して参ります。全国規模での教育システムの構築の推進、各地域ブロックでの長寿医療センター的機能を持つ病院の設置に向けた活動、パラダイムシフトに向けた国民的議論を巻き起こすための啓発活動の推進が重要な役割であると考えます。
 学会員ならびに関係の皆様方にはどうぞよろしくお願い申し上げます。

2015年9月吉日