事例集

症例1かかりつけ医から認知機能評価を依頼され、他の慢性疾患(複数の医療機関に受診)を併せ持ち、服薬管理にも問題がある独居高齢者の事例

総合解説・考察

 認知症は併存症の管理に影響を及ぼし、高齢者総合的機能評価(CGA)が必須である。【老年病専門研修カリキュラム 1.1.高齢者総合機能評価(CGA)の実践、2.1.認知症の包括的管理】
 本症例では夫のサポートが失われたことでアルツハイマー型認知症(AD)が明らかになり、受診時点では抑うつ気分は軽度で、意欲低下といった陰性の行動・心理症状(BPSD)が目立っていた。この場合急性発症に見えたり、認知症の診断が遅れたりすることがあるので注意が必要である。さらに老年症候群を含め多病で複数医療機関に通院し、ポリファーマシーでmedication reviewが必要である。認知症では本人も家族も病名、通院医療機関や薬を把握していないことがあり、お薬手帳などの情報収集が欠かせない。【老年病専門研修カリキュラム 1.2.老年症候群の評価と介入、2.4.薬物療法の見直しと調整】
 MNAやCONUT値(本症例4点、軽度栄養障害)で低栄養だが食欲不振は無く、原因は認知機能障害や意欲低下による食事準備段階にある可能性が高い。消耗性疾患の除外も必要だが、まずは規則的な食事提供を手配した。【老年病専門研修カリキュラム2.6.栄養療法の理解と連携】
 サルコペニアの状態で骨粗鬆症、圧迫骨折も併存し、転倒リスク評価1)でハイリスクであり、転倒・骨折予防介入が必要である。栄養介入に運動処方を加えるが、継続には意欲が必要で、BPSDの治療、デイケア・デイサービスの設定を行う。【老年病専門研修カリキュラム3.2.機能の回復・維持を目指した治療の実践、4.2.サルコペニアの診断と介入、4.4.地域資源を利用した介護予防介入】
 認知症診断時はACPを行うよい機会となる。進行性疾患であり本人が最も明確に意思表示できる時期とも言え、話し合いの場を持つことが望ましい。その後も話し合いを重ねて本人の意志を明らかにし、家族、医療・ケアスタッフで共有し、支えることを意識したい。【老年病専門研修カリキュラム7.エンドオブライフケアの実践/マネジメント】

Scene1 解答ならびに解説

  • 1)頭部MRI/CT, 脳血流シンチグラフィ(SPECT), 胸部レントゲン, 腹部レントゲン, 椎体レントゲン, 骨密度測定が必要である。認知機能障害の鑑別のため頭部画像検査を行う。血管リスクがあり抗血小板薬内服中で転倒リスクも高い本症例では、血管性認知症や慢性硬膜下血腫も鑑別する必要がある。SPECTは実施施設が限られるため、可能な範囲で考慮する。
    併存疾患のコントロール不良はせん妄を生じる場合があり、胸部レントゲンや腹部レントゲンで心不全、便秘症の状態を確認すべきである。身長低下があることから無症候性の圧迫骨折を疑い椎体レントゲンと骨密度の確認を行う。骨密度測定法の中でもDual-energy X-ray Absorptiometry(DXA:二重エネルギーX 線吸収測定法)は、四肢筋量測定が可能な機種もあり、サルコペニアの確定診断を行うことができる。
  • 2)エチゾラム、ゾルピデム、バイアスピリン、フロセミド、ファモチジン、酸化マグネシウム、オキシブチニン、スルピリド、セレコキシブなどが考えられる。
    エチゾラム、ゾルピデム、ファモチジン、オキシブチニンは認知機能低下やせん妄のリスクを高める。オキシブチニンは抗コリン作用による便秘を誘発するため複数下剤処方に至っている可能性がある(処方カスケード)。転倒骨折リスクの観点からはエチゾラム、ゾルピデム、スルピリド(錐体外路症状発現のリスク)の他、フロセミドによる起立性低血圧にも注意したい。腎機能障害があり、フロセミド、セレコキシブによる悪化の他、酸化マグネシウムによる高Mg血症が食欲低下・低栄養に関与する可能性があり、モニタリングが必要である。
    本症例の最終的な処方内容は以下の通り。
    アジルサルタン20mg/
    アムロジピン5mg合剤1T
    分1 朝食後
    スピロノラクトン25mg 1T
    分1 朝食後
    バイアスピリン100mg 1T
    分1 朝食後
    アトルバスタチン2.5mg 1T
    分1夕食後
    セレコキシブ100mg 2T
    分2朝夕食後
    テプレノン50mg 2T
    分2 朝夕食後
    酸化マグネシウム330mg
    2T分2 朝夕食後
    エチゾラム0.5mg 1T
    分1 夕食後
    イバンドロン酸ナトリウム水和物1mg静注月1回
    ピレノキシン点眼液0.005%
    1日4回 両眼

Scene2 解答ならびに解説

  • 1)アルツハイマー型認知症の可能性が高く、中等度と判断される。失見当識・記銘力障害を認め、MRIでstrategic regionの脳血管病変や血腫などが除外され、SPECTで典型的なADパターンを呈した。重症度分類はFAST(Functional Assessment Staging of Alzheimer’s disease)3)やCDR(Clinical Dementia Rating)4)で行うのが通常である。本症例では外出時でも衣服の汚れが目立ち(TPOに合わない衣服)、体臭があり(入浴頻度の減少)、FAST stage 5(中等度)と判断する。抗認知症薬全てが適応となり、陰性症状とアドヒアランスを考慮しドネペジルを選択した。
  • 2)日本老年医学会:ACP推進に関する提言5)参照していただきたい。
    1. ✕ 超高齢社会である日本ではACPの対象の多くが高齢者であり、医療機関や施設において開始される場合が多いが、本来ACPは全世代を対象としており、要介護・健康状態の段階にかかわらず行うことが望ましい。
    2. ✕ ACPファシリテーターは熟練した医療・ケア提供者が担い、医師である必要はない。ただし、本人の長年にわたる健康状態を把握し、家族や住み慣れた地域の医療・介護状況について精通するかかりつけ医はACP の中心的役割を担うことが期待される。
    3. ○ ACPは基本的に判断能力を有する人を対象とする。しかし認知症などのため本人に意思決定能力が無いと判断される場合でも、本人が少しでも理解できるよう手段を講じた上で医療・ケア従事者と本人が対話する場を設定するなど、本人の意思の把握に努める。
    4. ✕ 後見人は医療行為の同意権を持たないため、代弁者として最適とは言えないが、代弁者となる場合もある。
    5. ○ その通りである。
本症例のキーワード
  • 認知症
  • 高齢者総合機能評価
  • 多剤併用
  • 栄養障害
  • サルコペニア
  • 骨粗鬆症
  • アドバスンスト・ケア・プランニング
  • 介護保険
引用文献
  • 1)鳥羽研二, 大河内二郎, 高橋泰: 転倒リスク予測のための「転倒スコア」の開発と妥当性の検証. 日老医誌2005; 42: 346-352
  • 2)日本老年医学会・日本医療研究開発機構研究費・高齢者の薬物治療の安全性に関する研究研究班:高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015. 第1版, 日本老年医学会, 東京, 2015
  • 3)clan SG, et al. Functional Assessment Staging (FAST) in Alzheimer's Disease: Reliability, Validity, and Ordinality. Int Psychogeriatr. 1992; 4 Suppl 1:55-69.
  • 4)orris JC. The Clinical Dementia Rating (CDR): current version and scoring rules. Neurology. 1993; 43: 2412-2414
  • 5)日本老年医学会:ACP推進に関する提言.
    https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/press_seminar/pdf/ACP_proposal.pdf