ご挨拶
理事長 神﨑 恒一 (こうざき・こういち)
(杏林大学医学部高齢医学教授)
- 1986年
- 東京大学医学部卒業
東京大学医学部老年病学教室入局、助教、講師を経て - 2005年
- 杏林大学医学部高齢医学助教授(准教授)
- 2010年
- 杏林大学医学部高齢医学教授
- 2019年
- 日本老年医学会 副理事長
- 2023年
- 日本老年医学会 理事長
この度、秋下雅弘先生(東京大学大学院医学系研究科 老年病学 教授)の後任として、本会の理事長に就任いたしましたのでご挨拶申し上げます。
私は1988年に東京大学医学部老年病学教室に入局後、老年医学の診療、研究、教育に従事して参りました。本会では、秋下雅弘前理事長のもと副理事長として、また専門医制度委員会委員長として多くのことを経験させていただきました。秋下先生が理事長に就任された2019年の翌年から新型コロナ感染症の世界的大流行が始まり、社会活動、経済活動をはじめあらゆる活動が制限され、人々は重症感染症に怯えながら屋内に留まり、身体的にも精神的にも抑圧された日を何年も過ごさなければなりませんでした。そして、その影響を最も強く受けたのが高齢者でした。長いコロナ流行下でうつになった人、認知機能が低下した人、体が衰えた人が大変増えました。これは新型コロナ感染症による自粛を契機にフレイルが進んだことにほかなりません。高齢者の心と体はそれだけセンシティブだということです。一度落ちた機能を元に戻すことは容易ではありません。何が言いたいのか?高齢者の多くはストレス(新型コロナ感染症の流行)がかかると身体機能、精神・認知機能が低下しやすく、問題は決して病気だけではないということです。
多くの専門診療科で高齢者を診ていますが、多くの場合それは高齢者の特定の疾患を診ているのであって、その患者が抱えている様々な病気を重みづけしながら診ているわけではありません。このことは当ホームページ「市民の皆様へ」の「老年科専門医とは」や「読売新聞論点」に書かれています。そして、このように高齢者の全体を見て、病気だけでなくその方がおかれている状況を理解して診療を行う(生活を支える医療を提供する)のが老年科医の役割であり、その道筋を具体的に示すものが老年科専門医制度です。現在老年科専門医はまだ日本専門医機構のサブスペシャルティ専門医として認定されていませんが、近い将来認定されれば整備基準やカリキュラムの形で私どもが示す「老年科医」の姿や診療技術が具体的にお判りいただけると思います。以上、老年科医がどのような医師であるかを医師だけでなく、様々な医療関係の職種や国民に示すことが当学会の使命であると考えています。
老年医学は社会とのかかわりが強いことも特徴です。当ホームページ「提言・見解」でご覧いただけますように、「高齢者のオンライン診療に関する提言」、「新型コロナウイルス感染症流行下において認知症の人を含めた高齢者と家族を支えるための学会員への提言」、「ACPに関する提言」、「高齢者の定義と区分に関する提言」、「エンド・オブ・ライフに関する提言・見解」、「改正道路交通法施行に向けての提言」、「フレイルに関する日本老年医学会からのステートメント」など社会に向けて様々な提言を発信させていただきました。そして、2023年6月「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が国会で可決されましたが、ここには日本老年医学会からの意見がきちんと反映されており、このことは学会として大変有意義なことと捉えています。このような国民や社会に向けた活動は学会として大変重要であり、これからも積極的に行っていきたいと考えております。
その他、2018年から「健康長寿達成を支える老年医学推進5か年計画」を策定し、計画に沿ってさまざまな活動を行ってきました。その5本の柱の中にはフレイル対策や認知症への社会的施策推進、高齢者の定義が挙げられており、上述したように一定の成果を挙げたことは学会活動が計画に沿って実行されたことを裏づけるものです。2023年は新5か年計画を策定する年であり、2023年度中に公表する予定です。ここをご覧いただければ私どもの学会活動の具体的内容がお判りいただけると思います。新5か年計画では2018年版を基本として、科学的介護やフレイル予防、認知症基本法に基づく共生社会の実現、ICT・IoT・ロボット技術・AI などGerontechnologyの技術開発と社会実装などを目標に掲げる予定です。
新型コロナ感染症が5類となり、ようやく様々な活動が行いやすくなってきました。学会活動も日本老年学会と並走して対面での活動を行っていきたいと考えております。副理事長である飯島勝矢先生(東京大学高齢社会総合研究機構)と大石充先生(鹿児島大学 心臓血管・高血圧内科学)にお力添え頂き、活力ある学会活動を行っていきたいと思いますので、ご支援いただけますようお願い申し上げます。
2023年6月吉日