事例集
症例2下血、ショック状態で緊急入院の治療経過中に点滴の自己抜去、暴力行為、夜間興奮状態などが見られた80歳男性に認知症ケアチームとして介入した事例
Scene1 解答ならびに解説
- 1)本症例ではせん妄(メモを参照)、認知症の疑い、ポリファーマシーの可能性がまず挙げられる1)。多病も、老年症候群に含まれないものの、geriatric conditionとして注意することが喚起されている2)。高齢に伴い罹患している疾患数が増え、それに応じて処方薬の数も増加することが多い。そこに認知機能低下が加わると、服薬管理不十分、心不全などの疾患管理不十分が加わり、悪循環をもたらす。経過には記載されていないが、身体的フレイル、社会的フレイル(家族環境や地域との交流の不十分さ)なども潜在的に存在する可能性がある。【研修カリキュラム1.2. 老年症候群、2.1. 認知症の包括的管理、2.3. 高齢者に頻度の高い疾患の管理】
- 2)本症例は慢性心不全、虚血性心疾患、高血圧、高尿酸血症、便秘症、不眠症、過活動膀胱があり、11種類の処方を受けている。高齢者は多病 (multimorbidity) であることが増え、各疾患に合わせて治療薬を適切に処方した結果、処方薬が多くなっている場合が多い。処方薬数の多さそのものがポリファーマシーというわけではないが、数で区切る場合、5~6種類以上をポリファーマシーと定義する場合もある。それぞれの疾患について疾患管理が確実に行えているか、処方内容は疾病に対して適切か、高齢者に不適切な処方が行われていないか、服薬・疾患管理的観点から処方内容が適切か、残薬が生じていないか、服薬・疾患管理を本人が行えているか、もし本人が行うことが難しい場合は家族等が支援できる体制にあるかなどの検討・分析が必要となる。ポリファーマシーについては本事例集の別事例も参照いただきたい。【研修カリキュラム2.4. 薬物療法の見直しと調整(ポリファーマシーへの介入)】
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3)本症例では半年前の入院時にせん妄状態を起こしていると思われることから、せん妄を来たす背景としての認知症がないか、本症例での疾患・服薬管理の複雑さも考えると、認知症の評価を実施しておくことが望ましいと思われる。また、疾患・服薬管理を見守りあるいは支援していく上で、家族が疾患・服薬を理解しているか否かなどの情報収集をしておくことが望まれる。
心不全での入院は、疾患・服薬管理が不十分であれば、再入院することも予想される。入院に際してせん妄を起こしたことは、次回入院時のせん妄のリスクでもあり、その点からも認知症などのせん妄リスクを評価しておくことが望まれる。認知機能低下の有無を、経時的にCGA-7などを用いてスクリーニングチェックを行うことも有用であろう。家族の状況や認知機能低下の状況、疾患管理の上で、訪問看護サービスなどの介入が望ましい場合は、要介護認定を受け、介護保険サービスを利用することも視野に入れた対応が必要である。また、本事例では、せん妄・認知症に対して適切な対応が行えていれば、機能性僧帽弁閉鎖不全症に対するMitraClip®などの治療も受ける可能性があったことから高齢者に対する侵襲的治療の判断の観点でも留意しておく必要がある。【研修カリキュラム1.2. 老年症候群、2.1. 認知症の包括的管理、2.3. 高齢者に頻度の高い疾患の管理、3.4. 高齢者に対する侵襲的治療の判断、5.1. 介護保険の理解と活用】
Scene2 解答ならびに解説
- 1)認知症ケアチームは2016年4月に診療報酬上、認知症ケア加算が設けられ、それを実施する病院内チームとして登場した(加算については施設基準などの要件あり)。高齢化、認知症の増加に伴い、急性期病院入院患者のうち、10~20%の患者が認知症を伴っていること、回復期、慢性期の病棟では30~60%の割合にのぼることなどから、身体疾患の入院・治療において認知症の併存が大きな課題となっている社会情勢も考慮して設けられた仕組みである。認知症ケアチームの介入にあたっては単に認知症の診断・治療を行うというよりは老年医学的な高齢者総合的機能評価の視点での評価・介入が重要である。多病、ポリファーマシー、ADL低下、認知機能低下、精神機能、老年症候群、リハビリテーション、家族評価、社会資源利用に関する評価などを入院時、入院中のみならず、入院前の状況も含めて評価することが求められる。【研修カリキュラム1.1. 高齢者総合機能評価(CGA)の実践、5. 多職種連携におけるリーダーシップの発揮】
- 2)認知症ケアチームによる介入としては、老年内科医などの認知症関連専門医、認知症看護認定看護師、ソーシャルワーカー、薬剤師、作業療法士などが病棟看護師らと情報共有しつつ、認知症症状への対応の助言、せん妄予防、せん妄介入、疼痛管理についての助言、ADL維持やリハビリテーションに関する助言、家族への助言、院内デイケア利用の推奨、身体拘束についての助言、環境調整の助言(部屋の明るさなど)、病棟対応の見守り、栄養・食事摂取に関する助言、点滴ルートについての助言、投薬調整に関する助言、排泄に関する助言などを実施する。【研修カリキュラム3.3. 他の診療科、診療チームとの連携、コンサルテーション】
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3)本症例では、今回入院前の認知症の状態は不明であったが、せん妄が改善した時点での認知機能評価で、中等度の認知症状態(CDR 2, Clinical Dementia Rating)と考えられ、背景疾患としてアルツハイマー型認知症を主体とし、血管性認知症も混在する混合型認知症と考えられた。アルツハイマー型認知症が主体と考えられたことから、今回入院の6か月以上前のScene 1の時点でも少なくとも軽度の認知症を伴っていたことが推測され、疾患・服薬管理も不十分であった可能性が考えられた。そのことが、心不全の管理や排便・食道裂孔ヘルニアの病態管理の不十分さとも関連したと思われた。【研修カリキュラム2.1. 認知症の包括的管理】
家族について聴取したところ、妻は3年前に死亡しており、息子3人、娘2人がいた。独身の長男、三男の2人が同居していたが、キーパーソンは病院から自動車で40分のところに住む長女であった。入院前、介護保険制度の申請・利用はなかった。6か月前の入院当日の医師・看護師の病状説明の際のカルテに、本人の言葉として、「町内会や趣味の会の役員をやったり、畑仕事をしたりしてきた。要介護とは無縁でした。長男、三男も同居しており、自宅への退院を希望します」と記載があったが、今回の入院では、長女が「今後は転院または施設入所を希望します」と希望したことから、ソーシャルワーカーが転院調整を行い、入院40日目にリハビリ目的で転院することになった。また、リハビリ終了後は、施設入所の方向で検討することも話し合われた。
このような本人の意思を十分にくみ取れずに支援を進めてしまうケースは多々見られるが、認知症ケアチームの介入としても、患者支援としても見本的な支援成功事例とは言えない。上述したように身体疾患で治療を受けている際に認知症や老年症候群を伴っているとき、本人の意思をどのように尊重するか、家族介護力(メモを参照)をどのように評価し支援するか、全国平均的に考えたときも、まだまだ十分なことが出来ている状況にあるとは言えないことが多いと思われる。2018年6月に、厚生労働省から「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」が公表されており、本人の生活歴を丁寧に振り返り、本人の意思・言葉に耳を傾ける大切さや、そのための医療・介護関係者のスキルが示されている3)。このことはadvance care planning (ACP)ともつながる。今回の事例でも、本人自身が語った生活への愛着や「自宅に帰りたい」という希望があったにもかかわらず尊重できたとは言えない。また、家族介護力と地域資源利用の評価・情報提供・検討が標準的に行える体制整備が不十分であることも窺われた。【研修カリキュラム2.5. リハビリテーション療法の理解と連携、3.2. 機能の回復、維持を目指した治療の実践、6. 地域包括ケア・在宅医療の実践/マネジメント、7. エンドオブライフケアの実践/マネジメント】 -
4)本症例は、認知症中等度の時に、身体合併症による入院中にせん妄などが激しく、家族が介護放棄とは言えないまでも、本人の意思に沿わない決定を下してしまった症例とも言える。2012年に始まった認知症総合戦略では、できるだけ多くの人が認知症を理解し、初期段階から認知症と上手に向き合っていくケアの流れが重要とし、認知症ケアパスを各自治体が策定することとしている4, 5)。認知症の初期段階から家族やかかりつけ医などが認知症を持つことを十分に理解し、本人の意思を尊重しながらサポートする体制づくりをしていれば、疾患・服薬管理もスムーズに行われた可能性がある。また、せん妄を起こすことがあったとしても、短期的に解決し、自宅退院できる場合も少なくないことを考えると、本症例では、その体制が不十分だったため、本人の意思に沿わない転院・入所の方向での決定となったと思われる。身体合併症での緊急入院の経過中、多病、老年症候群が重なると、病歴を聴取・整理することも容易ではない場合も多く、本人の生活歴、意向、家族の結合力などを丁寧に把握することも行えていない場合が多い6)。一方で、認知症の初期段階から、もの忘れ外来などを通じて、それらが把握できていれば、家族や担当医が適切な意思決定や助言を行える場合が多い。老年内科医として、認知症ケアパス全体を見渡して、個人個人の支援や、病院・地域など個人を超えたレベルの診療・地域体制づくりに貢献できることが望まれる。【研修カリキュラム2.1. 認知症の包括的管理、4.4. 地域資源を利用した介護予防介入、6. 地域包括ケア・在宅医療の実践/マネジメント、7. エンドオブライフケアの実践/マネジメント】
本症例では経過中、誤嚥性肺炎も起こした。また、どのようにリハビリテーションを行っていくかも課題であったが、紙面の関係で詳しくは取り上げなかった。
本症例のキーワード

- 多病 (multimorbidity)
- ポリファーマシー
- 老年症候群
- せん妄
- 認知症
- 介護負担感
- 誤嚥性肺炎
- リハビリテーション
- ACP(アドバンス・ケア・プランニング)
メモ せん妄
古典的な老年症候群には褥瘡、せん妄、転倒、尿失禁、ADL低下が挙げられており、せん妄は老年症候群の中でも代表的な病態である1)。せん妄には、図に示すように準備因子、誘発因子、直接因子があり、それぞれの因子に複数の要因が含まれていることからも、老年期の複数の病態が絡み合って不穏、暴言、暴力などのせん妄症状となって表われていることを理解しておくことが必要である(図1)。

せん妄への対応として、準備因子、誘発因子になっている要因を早めに察知し、対応を行っていくことが求められる。複数の要因があり、医師、看護師、薬剤師、リハビリスタッフなどが評価、介入を行うとともにソーシャルワーカーとも協力して、退院後の環境整備を行っていくことが求められる。また、せん妄では、過活動型せん妄による不穏などで介入が求められることも多いが、実際には低活動型せん妄も多く、入院の長期化やADL低下につながることも多いことから、低活動型せん妄にも注意しておくことが必要である。せん妄のアセスメントでは、DSM-5(Diagnostic & Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed)の診断基準を参考に、 CAM(Confusion Assessment Method)を用いることで簡便に行いやすい7)。
メモ 介護負担感と家族介護力
認知症という病気でなぜ介護負担感が生じるのか? それには様々な理由が挙げられる。1)行動が理解しにくい、2)認識のずれが理解できない、3)予想外の行動が多く、目を離せない、4)見守り、付き添いなどが必要で、思わぬ時間を費やす必要がある、5)本人の今の姿と以前の姿を重ね合わせてしまうことによる様々な気持ちが生じる、6)それぞれの障害や症状が生活の隅々まで影響し、多岐にわたることなど、認知症は、認知機能の障害、生活機能の障害、それと精神症状を伴う病気で、家族等の周囲の人は、24時間365日、それを継続していかないといけないため重い介護負担感が生じる8)。あるいは、介護を引き受けていくことを理解できていない場合や、意図的に放棄している場合もある。家族介護力について老年内科医は無意識にある程度の評価をおこなっている場合も多いが、多職種が支援を行う際に共通言語として用いることができる標準的な家族介護力スコアは確立されていない。宮森ら、高橋らによる家族介護力スコアが提唱され、利用される場合もある9, 10)。更に詳細に把握し、支援を再構築するためには福島らの家族生活力量スケールなども参考にすることが望まれる11, 12)。家族介護力と介護保険サービスなどを総合的に考える視点を持つことや多職種と共有することが今後の老年内科医には求められる。また、老年内科医は、近年、高齢者独居、高齢者夫婦のみの高齢者単独世帯も増えているという社会情勢の把握も十分に行っておく必要がある。高齢者独居・高齢者単独世帯とは言っても、子ども世代が近居している場合もある。一方で完全に孤立状態の高齢者もおり、民生児童委員や地域包括支援センターの活動など、家族と介護保険以外の仕組みの活用も視野に入れておく必要がある。
本症例でも長男、三男が同居していたが、長男は仕事の関係で早朝に出勤し、深夜に帰宅するという生活をしており、三男はひきこもり状態にあることが、認知症ケアチームのソーシャルワーカーと長女との面談時にわかり、いわゆる8050問題に似た状況もあることが判明した。一方、親の介護をきっかけにひきこもり状態であった子どもが親を支援し始める場合もあり、家族を丁寧にエンパワメントしていく力量も老年医学的チームには求められる。高齢者虐待、介護離職などの課題にも常に関心を持っておく必要がある。
引用文献
- 1)Inouye, SK, Studenski, S, Tinetti, ME, et al. Geriatric syndromes: clinical, research, and policy implications of a core geriatric concept. J Am Geriatr Soc 2007;55(5):780-791.
- 2)Tinetti, ME, Fried, TR, Boyd, CM. Designing health care for the most common chronic condition--multimorbidity. Jama 2012;307(23):2493-2494.
- 3)認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン. 2018.
- 4)厚生労働省. 今後の認知症施策の方向性について; 2012.
http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/dementia/dl/houkousei-02.pdf. Accessed. - 5)厚生労働省. 認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン); 2015.
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000072246.html. Accessed. - 6)Isaacs, B. The Challenge of Geriatric Medicine. Oxford Medical Publications, 1992.
- 7)Wei, LA, Fearing, MA, Sternberg, EJ, et al. The Confusion Assessment Method: a systematic review of current usage. J Am Geriatr Soc 2008;56(5):823-830.
- 8)認知症の人と家族の会, 公. 認知症の人と家族の思いと介護状況および市民の認知症に関する意識の実態調査報告書; 2020.
http://alzheimer.or.jp/wp-content/uploads/2020/04/rouken2019.pdf. Accessed. - 9)宮森正, 佐藤恭子, 狩野真由美, et al. 在宅介護スコアによる家族介護力評価と在宅ケア支援. 癌と化学療法 2009;36(Suppl.I):33-35.
- 10)高橋友哉, 池永康規, 西村一志. 脳卒中患者退院先予測における「家族介護力スコア」の有用性. Journal of Clinical Rehabilitation 2010;19(7):696-699.
- 11)永井眞由美. 認知症高齢者の家族介護力評価とその関連要因. 老年看護学 2005;10(1):34-40.
- 12)福島道子, 島内節, 亀井智子, et al. 「家族の健康課題に対する生活力量アセスメント指標」の開発. 日本看護科学会誌 1997;17(4):29-36.


