事例集
症例5認知症に合併して誤嚥性肺炎を繰り返し、最終的に経口摂取が困難となる症例について、どのように誤嚥性肺炎を予防するか、どのように患者や介護者に寄り添うかを検討した事例
全体の解説

レビー小体型認知症の高齢者が大腿骨近位部骨折を契機に施設入所し、その前後から気道感染を繰り返したケースである。随所に、最善の対応ではないと思われる部分もあり、その点について検討するとともに、老年病専門医が、どのような説明や助言をすることで、本人や介護者と有意義な意思決定を進められるかを検討したい。
最初に、本症例は幻視、不安定な歩行などの運動障害、抗精神病薬に対する過敏性、認知機能の変動に相当する症候があり、診断基準上もレビー小体型認知症といえる1)。単に”認知症の患者“としてではなく、”レビー小体型認知症の患者“として診療することが、本シーンの主題である誤嚥性肺炎の予防や薬剤調整のためにも重要である。
Scene1 解答ならびに解説
- 1)老年病専門医は、肺炎を正しく診断し治療するだけでなく、肺炎を起こした背景を考え、予防につとめなければならない。レビー小体型認知症では、記憶の障害に加えて、パーキンソニズムがみられ、嚥下障害もアルツハイマー型認知症に比べて早期にみられることが多い2)。今回の肺炎も、レビー小体型認知症を背景とした嚥下障害が原因と思われることを説明する。娘の言う“しかたがない”という部分もあることを説明しつつ、それでも、少しでも予防できないかを検討する。レビー小体型認知症では、薬剤過敏性のためクエチアピンによる傾眠などの副作用も強く出現しやすい。本ケースでは、クエチアピンが幻視には有効であったかもしれないが、運動障害や嚥下障害を悪化させていると思われ、減量・中止を試みることは提案できる。ケースによっては、レボドパ製剤などを投与することもある。また、歯も含めて口腔内のケアを指導することも重要である。食後はすぐに横にならないように指導し、消化液の逆流を予防する。経過によっては、食事形態について施設の栄養士らと相談もする必要がある3)。便秘も消化液逆流の要因となり、誤嚥に関連するため、そのコントロールをはかる4)。特にレビー小体型認知症では自律神経の障害として腸管運動機能低下を合併しやすい。さらに、サルコペニアは誤嚥のリスク因子にもなると思われ、栄養補助食などで十分に栄養摂取することや、介護サービスを利用したり娘と一緒に歩いたりして全身の筋力低下を予防することが、肺炎の予防にも有効と思われる5)。また、このような機会に、肺炎球菌ワクチンの接種歴を確認し、必要に応じて接種を勧めることも忘れてはならない。このような質問を、〝年齢だから仕方がない“と切り捨ててしまうことはないように注意する。【1.2. 老年症候群の評価と介入、2.1.認知症の包括的管理、2.4. 薬物療法の見直しと調整、2.6.栄養療法の理解と連携、4.2.サルコペニアの診断と介入、4.4.地域資源を利用した介護予防介入】
- 2)最初の機会は、レビー小体型認知症と診断したときにあった。すなわち、ドネペジルやクエチアピンが処方されたときから、レビー小体型認知症の特徴についての説明、予想される経過、薬の有害作用についての説明や、転倒についての注意、さらには屋内の転倒予防対策を行うべきであった。次に、実際に運動障害も進行し、発熱を繰り返すようになったときにも、説明の機会はあった。すなわち、骨折の手術前後やリハビリテーションのなかで、今後の肺炎リスクなどが、評価され説明される方がよかったと思われる。リハビリテーション中にしばしば発熱していたことからも嚥下障害に気づく機会はあった。本題ではないが、本例は、大腿骨近位部骨折後であるが、骨粗鬆症治療薬も投与されていない。大腿骨近位部骨折手術前後に老年病専門医が全身を評価する体制をとる施設もあり、老年病専門医による包括的な評価は、様々な場面で重要になっている6)。【3.2. 機能の回復、維持を目指した治療の実践】
Scene2 解答ならびに解説
- 1)本患者の肺炎は、医療介護関連肺炎に相当する。医療介護関連肺炎においても、A-DropやI-ROADなどの肺炎の重症度の評価を実施する7)。A-Dropでみると、本例は3点(年齢と脱水、意識障害)で重症に相当する。しかし、重要なポイントとして、医療介護関連肺炎では、重症度だけでなく、患者の精神的・身体的活動性や介護環境も考慮して入院適応を判断する必要がある。例えば、介護環境の乏しい状況では、軽症でも入院が望ましいこともある。一方で、患者の精神的・身体的活動が患者の介護環境に強く依存しているときには、できるだけその環境から切り離さないほうが、ADLや認知機能の維持のためによいことも多い。さらに、患者自身の意思、あるいは、それを推定するための家族などの介護者の意思を考慮する。入院適応を総合的に考慮することが、質問3の回答にもつながる重要なことである。【3.1. 救急疾患への対応】
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2)誤嚥性肺炎の患者は、治療中や治療終了後にもしばしば発熱する。多くの場合、繰り返す誤嚥が原因である(もちろん、他の原因について鑑別することも重要である)。誤嚥による発熱を予防するためには、口腔ケアや適切な食形態の工夫、摂食・嚥下リハビリテーションが重要である。加えて、意識レベルの低下を防ぐことがポイントであり、そのためにも抗精神病薬や睡眠薬の使用を最小限にする。本症例で用いられたハロペリドールは、せん妄に対する薬剤の選択として間違っていないが、ますます嚥下機能を低下させていることに注意する。
A氏のようにせん妄リスクの高い症例では、誘因となる薬物の使用や処置を控えることが重要である。本症例で24時間の持続点滴は、明らかにデメリットのほうが大きい処置であった。さらに、時間や場所について繰り返し声かけして見当識を保つように図ったり、普段使用しているものをベッドサイドにおいたり、できるだけご家族の方に日中訪問してもらったりするなどの、非薬物的なせん妄予防を図ることが重要である。
なお、直接の回答にはならないが、本例のようなケースの発熱では、呼吸状態の悪化や画像所見の悪化などがなければ、発熱したという理由だけで、すぐに抗菌薬を再開する必要は必ずしもない。胃酸の誤嚥による一過性の発熱であれば、抗菌薬は不要である。医療・処置を最小限にしていくことも、誤嚥性肺炎の管理では重要である。【1.2. 老年症候群の評価と介入、2.1. 認知症の包括的管理、3.2. 機能の回復、維持を目指した治療の実践】 - 3)DNARは患者の急変時の医療処置の方針を決めるために必要であるが、患者や家族の満足度をあげるものではない。老年病専門医は、単にDNARについて説明するのではなく、ACP (アドバンス・ケア・プランニング)として患者がたどるかもしれない今後の経過を、患者や家族とあらかじめ情報共有し、少しずつ、そのときのための意思決定の支援を進めるべきである8)。誤嚥性肺炎では、本ケースのように抗菌薬によっていったん肺炎が改善したと思われても、その後も誤嚥を繰り返すことでADLの低下が進行し、経口摂取の再開が困難になることも多い。このようなときに、人工的水分・栄養補給も含めた積極的な栄養療法により状態の改善を図るべきか、医学的にも判断が難しい。それだけに、実際に問題が差し迫ってから相談するのではなく、事前に本人の意思を推定しながら、今後起こるかもしれないことを話し合うことができるとよい。【7. エンドオブライフケアの実践/マネジメント】
本症例のキーワード~このケースでの老年医学的課題~
- 誤嚥性肺炎
- 医療介護関連肺炎
- レビー小体型認知症
- せん妄
- サルコペニア
- 大腿骨近位部骨折
- 口腔ケア
- 摂食・嚥下リハビリテーション
- ACP(アドバンス・ケア・プランニング)
引用文献
- 1)日本神経学会 監修. 認知症疾患診療ガイドライン2017, 237-240, 医学書院, 2017年
- 2)海老原孝枝.【高齢者の誤嚥・肺炎予防up-to-date】脳機能と誤嚥性肺炎 認知症の観点から, Geriatric Medicine 55:1217-1220, 2017.
- 3)日本呼吸器学会. 医療・介護関連肺炎診療ガイドライン, 32-35, 株式会社メディカルレビュー社, 2011年
- 4)Takahashi M et al. Constipation and aspiration pneumonia. Geriatr Gerontol Int. 12:570-571, 2012
- 5)Fujishima I. et al. Sarcopenia and dysphagia: Position paper by four professional organizations. Geriatr Gerontol Int. 19:91-97, 2019.
- 6)東川俊寛ら. 高齢者大腿骨近位部骨折における老年医学会専門医介入・他職種連携の意義. 日本老年医学会雑誌. 55 Suppl: 122-123, 2018.
- 7)日本呼吸器学会. 成人肺炎診療ガイドライン2017. 34-48, 株式会社メディカルレビュー社, 2017年
- 8)日本老年医学会. ACP推進に関する提言2019年


