事例集

症例10褥瘡の発生を契機に様々な老年症候群が明らかになった90歳男性に対して多職種で介入した事例

Scene1 解答ならびに解説

  • 1)B氏は、全身倦怠感や眠気の増加を契機に活動量が低下したこと、脳梗塞後遺症による影響や就寝時の臥床体位のこだわり、ポリファーマシーによる覚醒度の低下などが影響し、右大転子部にIV度の褥瘡が発生した。また、入院前のブレーデンスケール1) は19点/23点(介護力の違いにより、病院では14点以下、施設・在宅では17点以下が褥瘡発生の危険点とされている)で、発症前のADLがおおむね自立していたが、褥瘡予防の対策を講じていなかった要因であった。
    B氏の褥瘡発生要因をまとめると、①右側臥位にこだわる自己認識、②全身倦怠感による臥床時間の増加、③全身倦怠感(誘因としては、貧血、慢性心不全や甲状腺機能低下症などの併存、利尿薬による脱水の可能性、降圧薬の増量による低血圧、睡眠薬や抗アレルギー薬の影響、などが考えられる)、④感覚鈍麻を招く問題 具体的には、脊柱管狭窄症の併存、鎮痛薬の使用、などが挙げられる。
    再発予防の対応策としては、①体圧分散マットの使用、②疾患の管理状態の評価、③薬剤の見直し、④サービス提供者(医療・介護)による皮膚管理の重要性を再確認することが挙げられる。【1.2. 老年症候群(歩行障害・転倒、認知機能障害、排泄障害、栄養障害、摂食・嚥下 障害など)の評価と介入】
  • 2)B氏に見られる老年症候群は、褥瘡、摂食・嚥下障害、移動機能低下、廃用、失禁、便秘、睡眠障害、フレイル、ポリファーマシーが挙げられる。また、右側臥位が好ましいと考えていた認知のゆがみがあることも含め、認知機能評価は実施することが望ましい。
    褥瘡に対する介入は、1)の「再発予防の対応」に記述した通りである。摂食・嚥下障害は、嚥下機能評価により適切な食形態を選択する。評価のために、MASA(The Mann Assessment of Swallowing Ability)などで重症度を客観的に評価するとよい2)。廃用に対しては、リハビリテーションを導入するとともに、適切な栄養介入を行う。筋肉量の減少を予防するために、腎機能に問題がなければ適正体重に対して1~1.2g/体重/日のたんぱく質摂取が行えるように栄養を投与する。失禁は、左半身不全麻痺による動作障害や薬剤の影響を見直す必要がある。利尿薬や頻尿を来す薬剤の必要性を評価し、減薬や薬剤の変更、または中止が可能であれば対応する。併存症のためにそれらの対応が困難であれば、排尿の環境について検討する。また、男性の場合は、前立腺肥大による下部尿路障害もあるため、薬剤の使用方法に留意する。入院中に排尿日誌を記録してもらい、頻尿の有無、排尿間隔、残尿感、切迫感などを評価するとよい。
    便秘は、水分摂取量(食事摂取量も含める)や活動量の評価を行い、適正な水分補給を促す。下剤の使用を行う場合は、刺激性下剤は最小限とし、習慣性のない緩下剤を主体とする。酸化マグネシウムを使用する場合、腎機能に留意することと定期的な血中マグネシウム測定を行いモニターする必要がある。睡眠障害は、睡眠・覚醒リズムを確認し、生活習慣や活動性の見直しの上で、必要最小限の睡眠薬の使用で対応する。ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、抗コリン作用や筋弛緩作用があり、転倒、骨折の危険性が高まるため、本症例のようにラメルテオンやスポレキサントの方が望ましい。しかし、漫然と長期に用いることは望ましくなく、減量や中止を常に検討すべきである。フレイルは、その原因を評価し可逆的な対応が可能なことを見出すことが重要である。本患者では、左半身不全麻痺がありそれ自体は回復が難しいが、その他の身体機能を低下させないようなリハビリテーションや栄養療法が必要である。また、さまざまな老年症候群と関連するため、それらへの対応がフレイル対策にもなる。ポリファーマシーについては、加齢に伴う薬物代謝の変化を考慮し、薬用量を評価し、その他、副作用の出現の有無(覚醒度、薬剤性パーキンソニズム、低血圧等)やアドヒアランスを確認し、可能な範囲で薬剤の調整を検討する。具体的には、降圧薬の減量、スタチンの必要性の見直し、排尿障害の治療薬の見直し、ベンゾジアゼピン系薬の調整、減量、などを考慮する。【研修カリキュラム1.2. 老年症候群(歩行障害・転倒、認知機能障害、排泄障害、栄養障害、摂食・嚥下 障害など)の評価と介入、2.4. 薬物療法の見直しと調整(ポリファーマシーへの介入)、2.5. リハビリテーション療法の理解と連携、3.2. 機能の回復、維持を目指した治療の実践 、4.1. フレイルの診断と介入】

Scene2 解答ならびに解説

  • 1)今後も褥瘡の再発の危険があり、ADLの低下に伴い危険性が増加する。対策は前述の通りである。移動機能の低下があるため、転倒リスクは高い。ポータブルトイレの使用、手すりの設置、シルバーカーや歩行器の使用など、環境整備支援を行う。失禁の主な原因が、移動障害による機能性失禁であれば、ポータブルトイレの使用を提案する。むせ込みが見られることから、誤嚥性肺炎の発症が懸念される。嚥下機能評価に応じて、食形態を適正化したりとろみ剤を使用したりする。咽頭期の障害が疑われることから、降圧薬をACE阻害薬に変更する方法も一つである。低栄養はさまざまな原因で悪化するが、口腔機能の保持がサルコペニアや身体的フレイルの増悪と関連することが示されているため3)、安易に軟らかいものを推奨するのではなく、口腔機能や嚥下機能の評価を踏まえて、適切な食形態を提案する。また、十分な栄養量が摂取できない場合は、栄養剤による補助栄養を考慮する。
    さらに、状況によっては今後推定される経過を説明し、経口摂取困難となった時、人工栄養の希望の有無を確認し、苦痛の緩和方法や急変時の対応について、本人の意思を尊重した話し合いを行う。認知機能低下は、高齢者において常に留意が必要であり、薬剤の調整の他に、知的刺激になるアクティビティや身体機能改善のためのリハビリテーションを提供できる環境を検討する。これらの諸問題の発生を予防し、再入院を回避する環境整備が必要である。医療ソーシャルワーカーと連携し、現状の介護力を評価し、安全かつ安心して療養できる適切な療養場所を選定し、本人および家族の意向も踏まえて調整する。【3.3. 他の診療科、診療チームとの連携、コンサルテーション、4.4. 地域資源を利用した介護予防介入、5.1. 介護保険の理解と活用、5.3. 退院支援の実施(退院時カンファレンス、退院時共同指導など)】
メモ 褥瘡

 身体に加わった外力は骨と皮膚表層の間の軟部組織の血流を低下、あるいは停止させ、この状況が一定時間持続されると組織は不可逆的な阻血性障害に陥り褥瘡となる。

(日本褥瘡学会 2005年)

 褥瘡は単に廃用症候群による寝たきりのみならず、薬剤による過鎮静(褥瘡による炎症や疼痛によりせん妄が誘発され、薬剤がさらに追加されることもある)、介護者の体調不良によるケア不足、その他、併存症の悪化や感染症による体動低下など、多数の生活上の問題がきっかけになりうる。従って、患者の生活状態や背景を包括的にみることが重要であり、個々の患者の背景と褥瘡との関連を明らかにすることが必要である。下の表は、高齢者の疾患や状態と褥瘡発生の関連を整理したものである。

外力を発生させる
疾患・状態
原疾患として
頻度の高いもの
予防の要点
疾患や状態によって自力で
体位変換が困難になる状態
脳血管障害急性期、
発熱性疾患、肺炎など
患者の体の動きを観察する。
体位変換を適切に行う。
一時的な薬剤や疾患によって
自力で体位変換が困難になる状態
薬剤、疾患など 高齢者に副作用をおこす薬剤を認識し、介入が可能であれば調整する。
骨突起を支点として体位変換を
おこなうような状態
パーキンソン病、片麻痺など 患者の体の動きが骨突起の上の皮膚、軟部組織を損傷していないか
を観察する。創の悪化につながる
動きを緩和する。
体の変形によって荷重が特定の
骨突起に集中しやすい
脳梗塞後後遺症、
廃用症候群、拘縮
患者の体型を観察する。
体型に応じた除圧を行う。
外力への認識が低下する状態 認知症 患者の認知機能を観察する。
認知機能に応じたケアを行う。
疼痛が低下する状態 脊髄梗塞、脊椎疾患、
脊椎損傷
患者の痛みの感じ方に応じた
ケアを行う

出典 磯貝善蔵.高齢者褥瘡の保存的治療の基本戦略.WOC Nursing, 3 (3), 32–40, 2015.
(一部改変)

 褥瘡に関連する患者の状態を明らかにすることで、再発予防のケア介入を検討する。栄養状態の評価、介護力の評価、介護サービスの見直し、耐圧分散マットの使用、適切な療養場所の検討、また、ベッドの配置の確認(例えば、テレビが右側にあるなど、右側臥位になりやすい環境になっていないか)、創部への外力を極力軽減するためのポジショニングの見直しや介護者への指導、介護提供者同士の情報共有などの対応が求められる。

本症例のキーワード
  • 老年症候群
  • デブリードマン
  • ポリファーマシー
  • 薬剤性パーキンソニズム
  • 機能性失禁
  • 廃用症候群
  • 耐圧分散マット
  • ポジショニング
引用文献
  • 1)日本老年医学会 編:健康長寿診療ハンドブック. 日本老年医学会, 東京, p91, 2019
  • 2)日本老年医学会 編:健康長寿診療ハンドブック. 日本老年医学会, 東京, p60, 2019
  • 3)Tanaka T, et al: Oral frailty as a risk factor for physical frailty and mortality in community-dwelling elderly. J Gerontol A Biol Sci Med Sci; 73(12): 1661-1667, 2018