事例集
症例137年間にわたり多彩な症候を呈しながら高カルシウム血症、骨粗鬆症ならびに脆弱性骨折を発症した79歳女
Scene1 解答ならびに解説
- 1)骨粗鬆症の診断と骨折リスクの評価として最初に家族歴と身長の低下に関する問診を行う。さらに胸腰椎のX線撮影による椎体骨折の評価を行う。そして骨密度測定を行う。骨密度は遺伝性が大きな要因となる。例えば、母娘間の骨密度での遺伝性は前腕骨骨密度で72%、大腿骨近位部で67%という報告もあり、骨密度における遺伝の影響はおおよそ50%から70%程度と考えられている1)。また両親の大腿骨近位部骨折歴がある場合、骨粗鬆症性骨折のリスクは1.54倍、大腿骨近位部骨折のリスクは2.27倍と強い影響があることが知られており、家族歴の聴取は重要である2)。
25歳時の身長より4cm以上の身長低下がある場合は椎体骨折を罹患しているリスクは2.8倍と報告されている3)。したがって身長低下が認められている場合は必ず胸腰椎X線撮影を行う。また身長低下の自覚がないことも多いので高齢者の骨粗鬆症診療においては初診時に胸腰椎X線撮影を念頭におくことが大事である。椎体骨折の評価に関しては”骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版”に従い、定量的もしくは半定量的評価法を用いる(Osteoporosis Japan 21(1) P.29 図2) 4)。半定量的評価法でグレード1以上に当てはまる場合は椎体骨折と判定する。
また喫煙、女性、高齢、COPDの既往は骨粗鬆症の危険因子として知られているが、本症例ではこれら全てが当てはまっており骨粗鬆症のハイリスク患者である。このように身長低下、喫煙、女性、高齢、COPDの既往、さらには脆弱性骨折の既往といった問診で得られる情報だけでも骨粗鬆症の危険因子を多く探ることができる。骨密度測定ができない施設でも問診による骨粗鬆症診療の重要性が示唆される症例である。
【研修カリキュラム2.2. 高齢者の高血圧症、糖尿病、脂質異常症、骨粗鬆症などの生活習慣病の管理】 - 2)我が国での2015年版原発性骨粗鬆症の診断基準を図2に示した(Osteoporosis Japan 21(1) P.11 表2)5)。
このガイドラインで重要なことは骨量を測定しなくても椎体もしくは大腿骨近位部において脆弱性骨折が認められる場合は診断基準が適応されることである。脆弱性骨折とは、軽度の段差における転倒などの軽い衝撃で起こった骨折をさす。次に骨量の測定法としてはDXA(Dual-energy X-ray absorptiometry)法がもっとも良く用いられている。測定部位としては腰椎もしくは大腿骨近位部の測定を行うことが多い。腰椎においてはL1~L4またはL2~L4を基準値とする。ただし、高齢者において、脊椎変形などのために腰椎骨密度の測定が困難な場合には大腿骨近位部骨密度とする。腰椎変形が強いと実際の骨密度よりも高密度として測定されるため正確な評価ができない。大腿骨近位部骨密度には頸部またはtotal hip(total proximal femur)を用いる。これらの測定が困難な場合は橈骨、第二中手骨の骨密度とする。もし、複数部位で測定した場合にはより低い値を検査結果として採用する。骨粗鬆症の診断は、若年成人(20~44歳)の骨量の平均値(young-adult mean; YAM値)との比較によって行う。骨量がYAM値の70%未満であれば骨粗鬆症、70~80%であれば骨量減少と判断される。
本症例は母親の骨折歴、喫煙歴、COPDの既往、女性、高齢と骨粗鬆症の危険因子が多く有している。また顕著な骨量減少もあり、身長の低下も著しい。そこにピットフォールが存在している。
本症例は病歴を見れば典型的な副甲状腺機能亢進症であったといえる。副甲状腺機能亢進症では皮質骨優位に変化が出現するため、橈骨33%部位が測定対象部位として最適となると言われている。高カルシウム血症の臨床症状は多彩である。軽度の場合は無症状であることも多いが、徐々にだるさ、疲労感、食欲不振、便秘が出現すことがある。悪化した場合は、脱力感、口渇感が出現する。また、高カルシウム血症では多飲、多尿と腎不全の合併症が知られているが、これらは腎臓で集合管において、脳下垂体後葉から分泌された抗利尿ホルモンであるバソプレッシンの感受性を低下させ、腎性尿崩症を起こすというメカニズムによるものである。尿路結石や消化性潰瘍、膵炎などをきたすこともある。本症例でも、頻尿、多尿、口渇感、尿路結石ならびに骨折の既往と副甲状腺機能亢進症による高カルシウム血症を疑わせる典型的な症状が現れている。また本症例ではうつ病との診断を受け、抗うつ薬の内服を続けているが、カルテを見直すとはB病院初診時に、すでに補正カルシウム値11.8mg/dlであり、骨密度測定を行なう3年前も補正カルシウム値11.3mg/dlであり、初診時から高カルシウム血症が持続していた可能性は十分に考えられる。したがってうつ状態も高カルシウム血症による倦怠感、易疲労感がうつ状態を増悪させていた可能性も否定できない。
そこで本症例では副甲状腺腫摘出後の精神状態を観察しながら、徐々に抗うつ薬や睡眠薬を減量することを検討しており、ゾルピデムを最初に中止とした。また便秘に対して酸化マグネシウム2g/日内服していたが、高カルシウム血症の消失とともに便秘症状も改善傾向にあるため、酸化マグネシウムも1g/日 (分1、夕食後のみ内服)に減量した。頻尿に対するソリフェナシンも中止にした。高カルシウム血症と老年症候群は症状がオーバーラップしており、誤った判断を行う可能性があることを留意すべきである。
高齢者で低骨量患者に遭遇すると、すぐに原発性骨粗鬆症と判断しがちである。しかしながら図3(『骨粗鬆症の 予防と治療ガイドライン 2015 年版』 p18図11)の原発性骨粗鬆症の診断手順に示したように、続発性骨粗鬆症のルールアウトは必須である6)。
現在の我が国の医療では患者の訴えに、それぞれの専門となる科が対応する。本症例でもうつ病に関しては精神科、尿路結石、頻尿に対しては泌尿器科、骨疾患に関しては整形外科を受診している。それに伴い内服薬は多剤となり、副作用のリスクも高くなる。各診療科の受診内容を総合的に診療できる高齢者診療すなわち老年医学的アプローチが大事であることを示唆する症例である。
なお、本症例において副甲状腺摘出後3年経過した82歳時のBarthel Indexは術前の45/100から90/100に上昇し、MMSEは術前の26/30から30/30に上昇した。これらADLならびに認知機能の改善は慢性の高カルシウム血症が是正されたことが関連している可能性があり、続発性骨粗鬆症の鑑別診断を行うことの重要性が示唆される。
【研修カリキュラム2.3. 高齢者に頻度の高い疾患の管理】【研修カリキュラム2.4. 薬物療法の見直しと調整(ポリファーマシーへの介入】
Scene2 解答ならびに解説
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1)原発性副甲状腺機能亢進症治療のための副甲状腺腫摘出直後は活性型ビタミンDならびに乳酸カルシウムを内服する。副甲状腺摘出直後は、残存する副甲状腺が長期にわたる高PTH血症によりフィードバックがかかっていて機能しないために低カルシウム血症を併発するからである。本症例でも術後直後は補正カルシウム値8.2mg/dlと低カルシウム値を認めた。術後よりアルファカルシドールを2μg/日、乳酸カルシウム3g/日を補充したところ、徐々にカルシウム値が改善したため、これら薬剤を減量し、3ヶ月後にはアルファカルシドールを1μg/日とした。なお、腎機能も高カルシウム血症が改善したとともに改善傾向にあり、術後6ヶ月後にはCcr: 38 ml/minと回復した。
A氏の内服薬に関しては腎機能が改善したとはいえCKDに関しては留意が必要である。腰痛を訴えているがCKD患者であることを考えNSAIDsの内服は極力避けアセトアミノフェンの使用を中心とするべきである。さらに本症例ではワルファリンも内服している。ビタミンKとの併用を行わないのはもちろんであるが、ロキソプロフェンの併用でワルファリンの作用増強による出血増大の可能性があることも忘れてはならない。
本症例において二次骨折予防のため骨粗鬆症治療は重要となる。骨粗鬆症の薬物治療における服薬状況は、治療開始後 1 年で半数近くの症例で処方どおりの服薬が出来ずに脱落してしまうと考えられている。したがってかかりつけ医は内服患者が骨粗鬆症薬を内服できているか、服薬管理を行うことが重要となる。
骨粗鬆症治療薬による効果判定は骨代謝マーカーの変化により評価可能である。ビスホスホネート、デノスマブ、SERM、エルデカルシトールといった骨吸収薬の治療効果の評価は、骨吸収マーカーで評価する。これら薬剤において骨吸収マーカーは開始後3ヶ月で有意に低下することが報告されている。骨形成マーカーは骨吸収抑制に伴ったカップリングにより二次的に低下するため骨吸収マーカーに遅れて3ヶ月後程度遅れて低下すると考えられている。各マーカーで算出された最小有意変化(minimum significant change: MSC)を超える変化が見いだされた場合に有意な効果があったと判断する。
骨吸収マーカーは治療開始時ならびに治療開始3ヶ月から6ヶ月後に二回目の測定を行い、変化率を算出する。前述したように骨形成マーカーは骨吸収マーカーによる変化はやや遅れるので6ヶ月程度の間隔をあけてから再測定を行い、変化率を算出する。
ビスホスホネート、SERM、テリパラチド、デノスマブなどの治療効果が骨代謝マーカーで評価可能と考えられる薬剤において、尿ならびに血液の採取時間が治療前後で同一にもかかわらず両者の差がMSCを超えて変化しない場合、薬物の効果はなかったと判断する。薬効がなかった際の原因には表1のような原因が考えられる。
本症例に戻ると、現在の腎機能であるならば積極的な骨粗鬆症治療も可能である。服薬管理を容易にするための工夫も必要である。例えば、内服回数が少なくてすむ月一回使用のビスホスホネートであるミノドロネートを内服し、3-6ヶ月後に骨代謝マーカーで骨吸収が抑制されていることを医師側が確認することも重要であろう。
【研修カリキュラム2.3. 高齢者に頻度の高い疾患の管理】【研修カリキュラム2.4. 薬物療法の見直しと調整(ポリファーマシーへの介入】 - 2)本症例は独居を希望している。長期の独居を考えれば、今後の二次骨折予防は必須と考える。二次骨折予防のための骨粗鬆症治療に関しては前項に記載した。骨粗鬆症治療に加えて、転倒リスクの評価は必須であろう。
転倒は日常生活のみならず、病院入院中、施設入所中でも多く発生する。高齢者では転倒に伴い脆弱性骨折を起こすことも多い。脆弱性骨折の一つとして、大腿骨近位部骨折が発症するが、本疾患は生命予後に影響を及ぼすことが知られている。したがって高齢者診療を行うにあたって転倒リスク評価は必須である。転倒の要因は大きく内的要因と外的要因に分けることができる(表2)。
内的要因とは、平衡維持機能の低下によってバランスを崩すことや運動機能の低下によってつまずきやすくなることをはじめとする本人の身体的要因である。例えば骨粗鬆症を背景とする脊椎圧迫骨折は重心を前方に移動させ動揺性を増加させる。筋肉量、筋力の低下を背景とするサルコペニアは下肢筋力の低下により転倒リスクが増加する。睡眠薬、降圧薬、血糖降下薬もふらつきの原因となることがあるので適正な使用を心がける必要がある。
外的要因を表2に列挙した。外的要因は自宅ならびにその周辺の様々な物が転倒リスクとなる。病院、施設においては外的な転倒要因は最大限配慮されている一方で、一般の住居では表1で示した外的要因に関する配慮も必要となる。これらに関しては介護者やケアマネージャーから転倒リスクとなる外的要因をリストアップし、できる限り転倒リスクをなくしていくように多職種で努力する必要がある。特に訪問診療を行う医療従事者は診察のみならず外的要因による転倒リスク評価も行い、高齢者本人のみならず同居者に転倒リスクとなる家庭環境を指摘し、改善を指導する必要がある。これら指導は転倒予防のみならずフレイル予防へとつながる。
転倒予防のため通所リハビリテーションにおいて筋力の評価を含めた転倒リスクの評価を行った後にリハビリテーションを行い、筋力の維持と向上を図り、独居を継続することが望まれる。筆者が勤務する地域では冬は寒さが厳しくなり高齢者のADLが低下するため、冬季のみ介護老人保健施設に入所し、入所リハビリテーションを行いつつ、暖かい暖房が完備された環境で過ごす高齢者も少なくない。
【研修カリキュラム2.5. リハビリテーション療法の理解と連携】【研修カリキュラム4.1. フレイルの診断と介入, 4.2. サルコペニアの診断と介入, 4.4. 地域資源を利用した介護予防介入】
メモ 骨粗鬆症に伴う脊椎圧迫骨折の診断と治療方針
骨粗鬆症性椎体骨折、脊椎圧迫骨折は骨粗鬆症を背景とする脆弱性骨折の中で最も頻度の高い骨折である。骨粗鬆症性椎体骨折の約2/3は無症状であるといわれている。椎体骨折が臨床的に問題となる場合には、寝返り、起き上がり、座位からの立ち上がりなどの動作に伴う体動時痛を認める。高齢者の腰背部痛、特に体動時に伴う疼痛は外傷起点がなくても脆弱性骨折がある可能性を念頭において診察することが重要である。画像診断においては脊椎単純X線像で椎体骨折を認めても、過去に発生した陳旧性骨折であるのか、臨床症状を呈する新鮮な椎体骨折であるかを判断することは困難である。その際には以前のX線像と比較することは重要である。比較する情報がなくても、MRIを用いてT1強調画像で低信号、かつShort T1 Inversion Recovery(STIR)像で高信号を呈する場合は新鮮椎体骨折が疑われる。しかしながらMRI検査は長時間の臥床を強いるため、腰痛を有する高齢者には必要性を十分に考慮した上でMRI検査を施行すべきである。
椎体骨折による急性の骨折がある場合には治療装具を主体とした保存的療法が第一選択となる。また、体動時の疼痛が強い場合に対しては安静とともに非ステロイド性鎮痛薬(NSAIDs)、アセトアミノフェンなどによる疼痛コントロールも必要となることが多い。その際には薬剤による副作用としての上部消化管障害の可能性を念頭において、プロトンポンプ阻害薬の使用も含めた対策を考慮する。高齢者はもともと腎機能が低下している方が多いので、特に腎機能障害が認められる場合には定期的に採血を行い鎮痛薬開始後の腎機能への影響をモニターする。本症例では腎機能低下が顕著であり、NSAIDsの使用は身長に行うべきであり、第一選択役としてはアセトアミノフェンを使用すべきであろう。
本症例のキーワード

- (続発性)骨粗鬆症
- 転倒予防
- 2次骨折予防
- サルコペニア
- フレイル
- ポリファーマシー
- リハビリテーション
- 介護保険サービス
引用文献
- 1)Aerssens J, Dequeker J, Peeters J, Breemans S, Broos P, Boonen S. Polymorphisms of the VDR, ER and COLIA1 genes and osteoporotic hip fracture in elderly postmenopausal women. Osteoporos Int. 2000;11(7): 583-91.
- 2)Kanis JA, Johansson H, Oden A, Johnell O, De Laet C, Eisman JA, McCloskey EV, Mellstrom D, Melton LJ 3rd, Pols HA, Reeve J, Silman AJ, Tenenhouse A. A family history of fracture and fracture risk: a meta-analysis. Bone. 2004; 35(5): 1029-37.
- 3)Vogt TM, Ross PD, Palermo L, Musliner T, Genant HK, Black D, Thompson DE. Vertebral fracture prevalence among women screened for the Fracture Intervention Trial and a simple clinical tool to screen for undiagnosed vertebral fractures. Fracture Intervention Trial Research Group. Mayo Clin Proc. 2000 ; 75(9): 888-896.
- 4)椎体骨折評価基準(2012 年度改訂版)Osteoporosis Japan. 2013; 21(1): 25-32.
- 5)原発性骨粗鬆症の診断基準(2012 年度)Osteoporosis Japan. 2013; 21(1): 9-21.
- 6)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版


