事例集

症例4腰椎圧迫骨折受傷後に食思不振が続いた86歳女性

Scene2

 A氏は骨折による疼痛は安静時には認めず、歩行時にNRS (Numeric Rating Scale) 3/10程度の痛みが時折感じられる程度であった。RSST(Repetitive Saliva Swallowing Test; 反復唾液のみテスト)は3回/30秒、水飲みテストは問題なく、味覚は正常、口腔は清潔が保たれていたが、残歯は上顎が8本、下顎5本で、義歯の装着を嫌い、最近は使っていなかった。腹部所見には問題なかったが、排便は週1-2回であった。Barthel Indexは骨折前60/100点であったのが、45点に低下した。MMSE(Mini-Mental State Examination)は1年前の入所時診断書では22点と記載されていたが、今回19/30点と軽度低下していた。LawtonのIADLは1/8点と電話をうける以外不能、GDS(Geriatric Depression Scale)は12/15点と抑うつ気分が強かった。ニーチャム混乱・錯乱状態スケールは23/30点と軽度低下がみられた。骨折前から昼夜逆転、徘徊がみられていたが、骨折受傷後は一人で歩きだすことはほとんどなくなっており、BPSDとして悪化はみられていない。
 便潜血は陰性で、胸部X線は1年前と変化なく、腹部超音波は12mm大の胆石が認められたが、他に特記すべき所見なく、胸腹部CTでも右S3の胸膜に沿った陳旧性炎症像と胆石以外、特記すべき所見は認められなかった。
 MNA®(Mini Nutritional Assessment)では9/30点、MUST(Malnutrition Universal Screening Tool)は 2/2点と低栄養状態であることが示された。追加した血液検査ではHb 9.0g/dl,網赤血球 7‰,Alb 3.2 g/dl、フェリチン 12.5 ng/ml、亜鉛 42μg/dlとそれぞれ低下がみられ、Ca 10.6mg/dl(補正値11.4mg/dl)と高値を認めた。TSH, fT3, fT4は基準値内で、CEA, CA19-9に上昇はみられなかった。尿所見に異常はなかった。心電図は左室肥大、胸部X線では両側胸水がみられるようになっており、心縦郭比は64%と拡大していた。頭部CTの実施歴が最近3年間なく、実施したところ両側基底核に多発性ラクナ梗塞が認められた。両側海馬の萎縮も目立ち、認知症の原因はアルツハイマー型認知症に血管性認知症が加わった混合型と考えられた。
 上部消化管内視鏡実施を本人およびキーパーソンとなる長男と相談したが、3年ほど前に検査を受けた際、苦痛が強く、もうやりたくないと本人が明確に、再現性をもって意思を示したため、腹痛や貧血の進行などがなければ当面、経過観察とする方針とした。この機会にと急変時の対応などにつき相談、人工呼吸器や胸骨圧迫は望まないという本人の意向を確認した。ある程度、寿命には達してきたと本人は考えており、もしがんが見つかっても、大きな手術はうけたくないという意向も長男夫妻、医師、看護師、ホームの相談員兼ケアマネジャーと共有した。

Scene2 Questions

  • 1) A氏の摂食量が少ないことに対し、行うべき介入は何か?
  • 2) 上部消化管内視鏡は見送るとした判断は妥当か?