事例集

症例5認知症に合併して誤嚥性肺炎を繰り返し、最終的に経口摂取が困難となる症例について、どのように誤嚥性肺炎を予防するか、どのように患者や介護者に寄り添うかを検討した事例

Scene1

 82歳の男性であるA氏は、77歳のころからもの忘れの悪化を指摘されるようになった。80歳のころから、知らない子供が枕元に見えることが増えてきた。同時期より、歩行にふらつきもみられた。喫煙歴20歳から50歳まで20本/日。機会飲酒。娘家族との二世帯住宅で暮らしていた。
 82歳のときに、もの忘れと幻視に対して、レビー小体型認知症との診断のもとドネペジルが処方され、さらにクエチアピンが追加された。クエチアピン開始後から幻視は軽快したもののA氏の歩行はさらに不安定で緩慢になった。薬の変更を相談しようと思っていた矢先に、屋内の段差で転倒し右大腿骨近位部骨折を受傷した。
 地域の中核病院で右大腿骨近位部骨折の手術をうけ、リハビリテーション病院に転院した。調子のよいときには廊下で歩行訓練もできるが、調子の悪いときには食事もとれないくらいにボーッとしていることが多かった。ときどき発熱することもあり、リハビリテーションは思うように進まなかった。それでも、室内のつかまり歩きができる程度になり、90日後に退院した。
 リハビリテーション病院を退院してからは、施設に入所した。施設入所時に、高齢者総合機能評価 (CGA) が実施された。MMSE 14/30点(時間・場所の見当識、遅延再生、計算、復唱、図形模写で減点)、Barthel Index 45点、Lawton IADL 0点。内服薬は、ドネペジル5mg 1T分1朝食後、クエチアピン25mg1T分1眠前。身長162cm。1年前に58kgであった体重は、52kgに低下していた。
 施設入所1か月後、38℃前後の発熱が2日続き、湿性咳嗽もみられ、食欲も低下したため、娘とともにクリニックを受診した。血液検査にてWBC 9,000/μl, CRP 8.2 mg/dl。胸部レントゲン写真では、右下肺野にわずかな濃度上昇がみられ、レボフロキサシン500mgを処方された。A氏は、数日で解熱し食欲も改善した。
 1週間後の診察で、クリニックの担当医は、「軽い肺炎だったのでしょうが、よくなりました。よかったですね。」と説明した。
 しかし、A氏の娘から、「それにしても、父は、どんどん弱ってきています。仕方がないのでしょうか?何かできることはないのでしょうか?」と尋ねられた。

Scene1 Questions

  • 1) 担当医はどのような説明を娘にすることができるか。
  • 2) このような娘の疑問に、もっと早く応える機会はなかったか。