事例集
症例5認知症に合併して誤嚥性肺炎を繰り返し、最終的に経口摂取が困難となる症例について、どのように誤嚥性肺炎を予防するか、どのように患者や介護者に寄り添うかを検討した事例
Scene2
1年後、この日も発熱のためにクリニックを受診した。1週間前から元気がなく、食事量も減っていた。今朝になって38.5℃の発熱もあり受診した。意識レベルJCS Ⅰ-3、BP 110/62 mmHg、心拍数90整、呼吸回数22回/分、SpO2 91% (room air)、心音に異常なし、両肺背側にcoarse cracklesを聴取した。上下肢に明らかな麻痺や感覚障害はなかった。
検査所見【血算】WBC 15,600/µl(NEUT 95%, LYMPH 3%, MONO 2%, HGB 9.4g/dl, RBC 333万/µl, HCT 28.4%, PLT 22.9万/µl. 【生化学】ALB 2.2g/dl, AST 30U/L, ALT 40U/L, BUN 28.0mg/dl, CRE 0.90mg/dl, Na 133mmol/L, K 4.5mmol/L, Cl 95mmol/L, UA 3.8mg/dl, CRP 13.9mg/dl【血糖】GLU 110mg/dl
胸部レントゲン写真では、両下肺野にair bronchogramを伴う浸潤影がみとめられた。
以上より、肺炎の診断で地域の中核病院に入院した。
入院担当医は、誤嚥性肺炎に対して抗菌薬で治療することを説明した。呼吸状態が悪くなる可能性や急変の可能性について説明し、A氏の娘は、心肺蘇生や人工呼吸器の装着を希望しないと回答した。アンピシリン・スルバクタムの投与に加えて、脱水もあると判断した入院担当医は、24時間の持続点滴により1500ml/日の輸液を継続した。A氏の熱は4日後に解熱し、血液検査にて白血球数 9,000/µlに低下したため、嚥下食が開始された。一方、A氏は、入院3日目くらいから夕方になると落ち着かなくなり、ふらふらと起きだして転倒の危険があるうえ、末梢点滴の自己抜去も繰り返したため、眠前にハロペリドール2.5mgの点滴静注が屯用として追加された。日中は眠っていることが多く、食事量はふえず、ときどきむせた。入院10日後に再び発熱があったため、食止めになり、抗菌薬投与が再開された。呼吸状態の大きな悪化もなかったが、A氏は傾眠傾向で喀痰も多く、入院14日目になっても経口摂取を再開できなかった。
このときの娘の思いは以下のようなものであった。
「昼間に訪問すると、今まで以上にボーッとしているか、眠ってしまっていて、話も通じない。最初は順調に熱が下がっているという説明であったし、呼吸の悪化もないようだが、かといってよい状態になっているとも思えない。入院前までは、食事もなんとか摂っていたのに、胃瘻についても相談された。それにも関わらず、転院についても相談したいという連絡があった。いったいどういうことだろう。」
Scene2 Questions
- 1) このようなケースの入院適応は、どのような点を考慮して決定するか。
- 2) 本患者の入院10日目の発熱を予防するためには、どのようなことができたか。
- 3) 入院担当医は、入院時に娘といわゆるDNARについて説明した。それ以外に、今後の可能性としてあらかじめ話し合っておくべきことはなかったか。