事例集

症例8急速に認知機能とADLの低下を認めた81歳女性の手術適応について、心臓血管外科からコンサルトを受けた事例

Scene1

 A氏は81歳の女性。X-10年ほど前より大動脈弁狭窄症(AS)を指摘されているが、元々手術などの侵襲的な治療に対して本人は消極的であり、無症状でもあったため、近医循環器内科クリニックにて経過観察されていた。X-1年9月、誤嚥性肺炎で入院したB病院でASが高度であることを指摘され、X年1月には徐脈性心房細動を認め、全身の浮腫と胸水が出現したため、急性心不全に対してB病院の循環器内科に入院となった。家族の話では、この頃より急速に認知機能とADLの低下を認めたとのことであった。利尿薬のみで改善し退院となったが、ASに対して従来の開胸術に比べ侵襲の低い、経カテーテル大動脈弁植え込み術(Transcatheter Aortic Valve Implantation: TAVI)という術式があることを家族が知り、C大学病院心臓血管外科に紹介となった。本年2月、TAVIの適応に対する精査目的にてC大学病院に入院となった。

既往歴

慢性心房細動、陳旧性脳梗塞、胃がん術後、子宮がん術後、認知症、胸腰椎圧迫骨折

投薬内容

エナラプリルマレイン酸塩錠
2.5mg 0.5T 分1 朝食後
ボノプラザンフマル酸塩錠
10mg 1T 分1 朝食後
ドネペジル錠 5mg 1T
分1 朝食後
フロセミド錠 20mg 1.5T
分1 朝食後
スピロノラクトン錠25mg 1T
分1 朝食後
クエン酸第一鉄Na錠50mg 2T
分1 朝食後
酪酸菌製剤細粒 3g
分3 毎食後
膵臓性消化酵素配合剤顆粒 3g
分3 毎食後
ルピブロストンカプセル24µg
2C分2 朝夕食後
ラメルテオン錠 8mg 1T
分1 夕食後
ピタバスタチンOD錠 2mg 1T
分1 夕食後
センノシド錠 12mg 2T
分1 眠前
ブロチゾラム錠 0.25mg 1T
分1 眠前
介護状況

長男家族と同居。要介護1

 心臓血管外科にて経食道心エコー、胸部CT、頭部MRIなどを施行され、ASに対する術式としてTAVIの適応ありと判断されたが、認知症により意思疎通が困難で、食事を摂取せず、ケアへの抵抗や拒薬もあるとのことから、手術の可否を含め老年内科にコンサルトとなった。心臓血管外科医から家族へ、重症ASは手術をしなければ心不全症状が出現してからは2年の予後を期待できないこと、突然死のリスクがあること、TAVIを行うことでこれらを回避できる可能性があるが、TAVI自体の周術期死亡リスクが3~5%あることが説明されている。検査の結果、手術適応ありと判断されたものの、認知症が進行していることや、本人が元気な時に無理な延命をしないでほしいと希望していたことから、TAVIに対して家族は消極的であるが、気持ちは揺れ動いており戸惑っている。
 老年内科医師が担当看護師とともに訪室し、A氏に自己紹介をすると、「うるさい!は?いらんって言ったらいらん!!」と声を荒立てる。改めて翌日に訪室したが、やはり会話は成立せず、簡単な問診や身体診察も困難であった。

Scene1 Questions

  • 1) A氏のプロブレムを挙げよ。
  • 2) A氏のプロブレムを評価するためにどのような検査・処置を行えばよいか。