事例集

症例9かかりつけ医から糖尿病の管理目的で紹介され、高血圧、脂質異常症、肥満症を併せ持ち、多剤投与があるフレイルな85歳の高齢者の事例

Scene2

 外来で診察時にCGA7を施行したところ認知機能低下が疑われたため、MMSEを実施した。その結果は24点であり、軽度認知機能低下が認められた。
 早朝や空腹時のふらつき症状の原因を調べるため、持続血糖モニタリング(CGM)を行った。その結果、夜間から早朝にかけて低血糖が頻発していた。認知機能の低下は低血糖もその一因かと思われた。
 低血糖を防ぐためにノボラピッド30ミックスを中止、また年齢や腎機能を考慮してメトホルミンも中止した。代わりにデュラグルチド0.75mg 週1回の注射を開始し、家族が自宅にいる日曜日に投与することで家族に注射の確認を依頼した。また特に飲み忘れが多かったボグリボースも中止したところ、腹部の張りが消失したためガスモチンも中止することができた。
 入浴後や立ち上がりのめまい症状について詳しく問診したところ、非回転性のめまいであり起立性低血圧症の可能性が高いと考えられた。また手足の先にしびれ症状を認め、糖尿病性の自律神経障害の存在も疑われた。そこでドキサゾシンを中止したところ、めまい症状は消失した。めまい症状は血圧低下によるものであったため、かかりつけ医でめまい症状に対して処方されていたメリスロンも中止することができた。ドキサゾシンを中止したことによる血圧上昇を避けることと、内服アドヒアランス向上のため、カンデサルタンとアムロジピンをアジルサルタン20mg・アムロジピン5mg配合錠に変更したところ、変更前とほぼ同程度の血圧で推移した。ポリファーマシーの観点からまとめると、紹介時に1日2回のインスリン注射および8種類の内服薬(計18錠)あった薬剤を、週1回の注射薬と3種類の内服薬(計2錠)まで整理することができた。
 なお、易疲労感、歩行速度の低下(0.8m/秒)、握力の低下(右:26kg、 左:23kg)の3点からフレイルの状態を来たしていた。さらにDXA法により四肢の骨格筋指数(skeletal muscle mass index : SMI)を測定したところ、6.8kg/m2と低下を認め、握力と歩行速度の低下と併せてサルコペニアの診断となった。本症例は肥満症を認めていることから、サルコペニア肥満を合併しているものと考えられた。多職種による多面的な介入を図り、家族にもフレイルやサルコペニア対策の重要性を説明しサポートをお願いした。具体的には、栄養士からサルコペニアがあるため糖尿病に対する過度の栄養制限は行わないこと、肉・魚などたんぱく質を十分摂取することを伝え、また理学療法士から座ったままできる運動・筋トレのメニューを指導した。その後、かかりつけ医に逆紹介しフォローされているが、筋力は維持したまま体重は3kgほど減少、HbA1c 7.2%と低血糖なく安定し、以前より少し活気が出て、落ち着いた日常生活を送っている。

Scene2 Questions

  • 1) 高齢者の糖尿病、高血圧症、脂質異常症に対する治療目標について、それぞれどういった点に注意して設定すべきか。
  • 2) サルコペニア肥満を合併した高齢糖尿病患者に対する食事指導には、どういった点に注意が必要か。