事例集
症例10褥瘡の発生を契機に様々な老年症候群が明らかになった90歳男性に対して多職種で介入した事例
Scene1
B氏は90歳の男性。脳梗塞後遺症による左半身不全麻痺がある。近隣に長男家族が住んでいるが、関係性が悪く介護協力は得られていない。生活動作は一日の多くの時間において見守りおよび軽介助が必要な要介護1レベルであり、独居生活への復帰を目標として介護老人保健施設で生活をしていた。
併存症として、高血圧症、脂質異常症、虚血性心疾患(冠動脈ステント留置後)、慢性心不全、甲状腺機能低下症、脊柱管狭窄症、鉄欠乏性貧血、高尿酸血症、前立腺肥大症があり、数か所の医療機関に受診していた。
ある日の入浴介助時に、施設の介護者が右大転子部の傷(下記写真)を発見した。皮膚科へ受診したところ、入院治療が必要であると説明された。紹介入院となり担当した皮膚科医は併存するさまざまな問題への対処が必要であると考え、老年内科へコンサルテーションを行った。
老年内科医の聴取したところでは、施設でのB氏は杖歩行が可能で、トイレで排泄は行うが軽度の手助けが必要で、時折トイレに間に合わずに下着を汚してしまうことがあった。また、食事摂取は自立していたが、水分摂取時に時々むせることがあった。B氏は寝たきりにならないよう日中の大半を座って過ごした。左半身不全麻痺があるため、就寝時は右側臥位がよい、という認識から、右側臥位をとることが多かった。
B氏は、入院する数日前から全身倦怠感や眠気を感じ、普段と比較して横になることが多くなっていた。話によれば、1か月ほど前、血圧が高めになっていたことから降圧薬が増量された。
入院時の身体計測では、身長170cm、体重74kg、BMI 25.6kg/m2、血圧 104/60mmHg、脈拍 66/分で、ブレーデンスケールは19点/23点であった。血液検査所見は、WBC 4300/µl, RBC 387×104/µl, Hb 11.7g/dl, PLT 21.7×104/µl, TP 6.9g/dl, ALB 3.7g/dl, BUN 24mg/dl, Cr 0.8mg/dl, T-chol 164mg/dl, Na 136mmol/L, K 3.6mmol/L, Cl 103mmol/L, CRP 0.80mg/dlと低アルブミン血症と軽度の炎症反応増加を認めた。
投薬内容
カルベジロール2.5 mg 2T 分2 朝夕食後 |
テルミサルタン/アムロジピン 40mg/5mg 1T 分1 朝食後 |
アスピリン100 mg 1T 分1 朝食後 |
ワルファリン1 mg 1T 分1 朝食後 |
アトルバスタチン 10 mg 1T 分1 夕食後 |
ランソプラゾール 15 mg 1T 分1 朝食後 |
フロセミド 40 mg 0.5T 分1 朝食後 |
スボレキサント15 mg 1T 分1 就寝前 |
ラメルテオン8 mg 1T 分1 就寝前 |
プレガバリン25 mg 4T 分2 朝夕食後 |
ナフトピジル25 mg 1T 分1 朝食後 |
フェブキソスタット20 mg 2T 分1 朝食後 |
クエン酸第一鉄Na 50 mg 2T 分2 朝夕食後 |
フェキソフェナジン60 mg 2T 分2 朝夕食後 |
レボチロキシン50 µg 1T 分1 朝食後 |
酸化マグネシウム330 mg 2T 分2 朝夕食後 |
国立長寿医療研究センター 皮膚科・磯貝善蔵氏提供
Scene1 Questions
- 1) この男性の褥瘡の発生要因は何が考えられ、今後、再発、予防のためにはどのような対応が必要か?
- 2) この男性はどのような老年症候群を持ち、その要因は何が考えられ、どのような治療介入や予防が必要か?