事例集
症例11心房細動,大動脈弁閉鎖不全,高血圧による心不全増悪により,入退院を繰り返している85歳の男性
Scene1
B氏は85歳男性で、妻と二人暮らしである。50歳代から高血圧があり、72歳から持続性心房細動とともに、大動脈弁閉鎖不全も出現し、2年前から心不全にて3回、入退院を繰り返した。変形性腰椎症による脊柱管狭窄症と前立腺肥大あり、近所の内科と整形外科、泌尿器科の診療所に通院中である。要介護1の認定を受け、週2回デイケアを利用中である。1本杖で近くのスーパーなどに買い物に出かけるが、数十メートル歩くと息苦しくなり、その場で立ち止まって休憩している。喫煙歴は15本 x 50年あるが、70歳ごろに禁煙、アルコールは若い頃は1日4合ほど飲んでいたが、60歳で会社を定年退職した後は少なくなり、この数年は週1-2回、1合程度/回であった。一軒家に住み、経済的には余裕がある。遠方に子や孫がいる。
今回は5日前から咳と痰がよくでるようになり、食欲もなくなった。摂食量が減少し、簡単なインスタント食品と飲み物などで食事を済ませていたが、緩下剤を服用し続け、軟便が続いた。自宅で静かに過ごしていたものの体がだるく、次第に息苦しさが強くなって救急外来受診、心不全の悪化の診断で入院となった。入院時の体温は37.2℃、血圧 142/78mmHg、脈拍 96bpm、Room airでSpO2 86%、身長162cm、体重51.3kg(BMI 18.7kg/m2)、下腿浮腫は両側に強度であった。白血球 9800/µl、Hb 11.2g/dl、CRP 4.8mg/dl、BUN 29.0mg/dl、Cr 1.16mg/dl、 LD 132U/L、CK 48U/L、Na 142mmol/L、K 3.6mmol/L、eGFR 46 (ml/分/1.73m2)、Alb 4.3g/dl、BNP 423pg/mlであった。心電図は心房細動で心拍 114bpm、V4-6に陰性T波が認められたが、1年前と特に変化はなかった。胸部X線では心胸郭比が69%と拡大、両側胸水と肺うっ血像が認められた。経胸壁心エコーでは左室拡大(左室拡張末期径62mm)、びまん性の壁運動低下(左室駆出率32%)、IVS 12mm、LVPW 16mm、LAD 45mm、AR中等度、有効逆流弁口面積 0.12、左室収縮末期容積(LVESD) index>28mm/m2であった。MMSE(Mini-Mental State Examination)は28/30点で,Barthel Index 95/100と基本的ADLは保たれている。GDSは7/15点とやや抑うつ気分が強かった。
投薬内容
エドキサバン 30mg 1T 分1 朝食後 |
ファモチジン20mg 1T 分1 朝食後 |
カルベジロール2.5mg 1T 分1 朝食後 |
オルメサルタン10mg 1T 分1 朝食後 |
フロセミド40mg 1T 分1 朝食後 |
プレガバリン75mg 2T 分2 朝夕食後 |
タムスロシン塩酸塩0.2mg 1T 分1 夕食後 |
パンテチン酸20% 1.5g 分3 毎食後 |
酸化マグネシウム 1.5g 分3 毎食後 |
Scene1 Questions
- 1) 心不全が悪化した誘因として考えられるものは何か。
- 2) 心不全悪化に関連する老年症候群には何か考えられるか。